29.1.12

炎路を行く者 感想

発売日当日に購入・発送してもらって、3日後に届くから郵便ってすごいですね。まあ、それなりのお値段でしたが…。

試験が終わって他に課題も何もないこの時期に発売され、届いたことに感謝!おかげで集中して一気に読めました。

当然のごとくネタバレです、ご注意!!
















炎路の旅人

まず読んで素敵だと思ったのが、「アル・マ・タルシュ」という言葉。ヨゴ語で「タルシュの下のしずけさ」という意味。おそらく念頭に置かれているのはいうまでもなくPax Romana、「ローマの平和」でしょう。この事実を描くことで、今までチャグムの視点に慣れていた私たち読者に、タルシュ帝国の別な見方が提示されるように思えます。そして、ひいてはラウル王子の人となりについても…。

今まで見えていたタルシュのやり口は、
1.攻め滅ぼす。近衛兵など抵抗しそうな奴らは一族郎党皆殺し
2.重税をかける
3.別の国を滅ぼしたら臣民権「コムス」を与える
※この間、文化・言語・経済のタルシュ化を進める→固有の文化等の消滅、一国としてのアイデンティティを奪う

という感じで…どう見てもあまり歓迎できるものではなく。でも、警邏隊の導入などの徹底的な治安維持活動による「アル・マ・タルシュ」、そして隣国との戦闘行為が消えた今、おそらく交易は潤い、農業もタルシュの高度な技術を取り入れることによって収穫量も増え…今上の帝が(ヒュウゴ曰く)無能な為政者である以上、帝のみが支配するよりも豊かになったのではないか、とも思えます。少年ヒュウゴは夫を亡くした女たちが貧困に喘いでいるのを見て憤っていますが、ヨゴ皇国はもともと、周辺国との戦が絶えなかった国。彼女らの夫がタルシュのせいで死んだのは確かですが、征服されていなかったとしても生きていた保障もないわけです。
そして、先行する作品では「傲慢な征服者」というイメージでしか描かれなかったラウル王子の人柄に関しても、ひとつ新たな面が見えてきます。「枝国は、タルシュの国土。その実りは帝国の実り」と彼が本当に言ったのなら、ヒュウゴが彼の下で働くようになったわけも、分かる気がします。

新ヨゴ側の、北の大陸に戦乱を巻き起こしたタルシュ帝国が、南の大陸では平和を創った、というのは少々皮肉な感じがします。

…さて、真面目っぽい考察もどきは置いておいて。

ヒュウゴーーーー!!d(゚ー゚d(゚ー゚d(゚ー゚d(゚ー゚)b゚ー゚)b゚ー゚)b゚ー゚)b yeah!
というのが最初の感想です、はい。
エキサイトしながら読んでました。
家族を逃がそうとして必死なヒュウゴにエールを送ったり、
下町をシメてるヒュウゴうわー!!とか、
リュアンとの交流におお…!!とか
最後は言葉にならない叫びばかり発していました。


 読了して思ったのが、ヒュウゴはチャグムのようでもあり、バルサのようでもあるのだな、ということ。同じ年頃の二人に出会ったなら、どちらとも気が合っていたのではないでしょうか(バルサとチャグムは、多分会ったとすれば衝突するのではないかと私には思えるのです)。
 『蒼路の旅人』でヨゴの帝のことを「権力争いは得意だが、国を豊かにするすべを知らぬ無能な男」と評するヒュウゴ。帝とヨゴの信仰を真っ直ぐに信じていた少年ヒュウゴと比べ、彼がどのようなことを見て、考えて、成長してきたのかが伺い知れる気がします。






十五の我には


 15歳のバルサ。ってだけでもう嬉しくてたまらないのですが、当然、彼女はまだヒュウゴよりさらに荒れた生活をしているわけで…。とにかく、教養人なジグロが恰好よかったです。詩集…!
 ジグロにどうしようもなく大きな負い目を感じているバルサ。そんな彼女に詩を聴かせるジグロ。その詩がまたぐっとくる内容で。「十五の我には…」と。うん、15歳のときに見える世界と、20歳のときに見える世界、全然違いますよね。私には、ロルアほどはっきり、見えるようになったとは言いきれませんが…。
 

まだまだ書きたいことがいっぱいですが、どうにもまとまらないので、今回はここまで。

28.1.12

SHERLOCKED

最近、たまたまBBCで放映しているのを見かけて観たら一気にはまったドラマ、「シャーロック」。面白い!
ガイ・リッチーのホームズ映画に続き、またか!と思いながら観たこのドラマも、やはり「シャーロック・ホームズ」そのものというよりは、ファンが創ったパロディのような雰囲気。コナン・ドイルの原作が好きで好きで二次創作しちゃいました、という感じ。それだけに、原作関連の小ネタが満載で楽しいこと楽しいこと。私は原作を一通り軽く読んだことがある程度の人間なので、きっと見逃してるネタもたくさんあることだと思いますが、それでも相当数は目につきます。

この「シャーロック」は、コナン・ドイル作の『シャーロック・ホームズ』シリーズが存在しない現代に生きる「コンサルタント探偵」のシャーロック・ホームズと、アフガニスタン(!)退役軍医のジョン・ワトソンが謎を解いていく、という話。現代の話なのに19世紀の原作通りアフガニスタン帰りにできちゃうところに、ちょっとうすら寒いものを感じますが…。
二人は第一話で原作通り共通の知人に紹介されて出会い、ベーカー街でフラットシェアをすることになります(この「フラットシェア」という言い方もいかにも現代で個人的にツボ)。ハドソン夫人が大家さん。「ミスター・ホームズ」「シャーロックと呼んでくれ」と現代な会話をして現代風に名前で呼び合う関係になったジョンとシャーロックは、早速最初の事件の解明に飛び出していきます。

ところで、ジョンは退役後、PTSDに悩まされており、松葉杖をついています。でも、実は実際に撃たれたのは肩で、足を引きずっているのは精神疾患が原因。ワトソンを悩ませているのは、精神科医が考えているような戦場での恐怖ではなく…「君は戦場の記憶に苦しめられているんじゃない。あのスリルが恋しいんだ」とシャーロッが見抜いたように、一般市民に戻りたくない、という思いが原因だったようです。実際、シャーロックに協力して事件に関わっていく内に、足の不自由な状態は解消されます。そして、そのPTSDの治療の一環として医師から勧められているのが、日常を綴ったブログの執筆。最初は「書くことなんて何もない」と拒否するジョンですが、シャーロックに出会った後は彼との冒険を綴るようになり、やがて人気ブロガーに…!つまりこれが、ワトソンの事件簿に相当しているのです。ちなみにシャーロックも個人のホームページ「推察の科学」を持っていますが、小難しすぎて一般受けしていないようです。(BBCによって実際に二人のブログとホームページが作成されているのです!リンクをクリックすれば飛べるようにしてあります※ワトソンのブログの方はネタバレ注意。事件簿なので当然種明かしが…)

ホームページを開設していたり、ブログを書いていたりといかにも現代っ子なシャーロックとジョンですから、推理にも当然、最新機器を使いこなしてきます。電報の代わりにテクストメールを使ったり、GPSシステムを駆使したり。様々な情報機器のある現代は、なるべく部屋を出たくないシャーロックにとって恰好の時代で、ジョンを使い走って現地からライブチャットさせたり、メールで呼びだしたりと便利に利用しています。そして敵方も、負けないくらい現代的に攻めてくるのです。

こういった設定もさることながら、ひときわ光っているのが俳優たちの演技。シャーロックを演じるベネディクト・カンバーバッチ、ジョンを演じるマーティン・フリーマン、そしてモリアーティを演じる、アンドリュー・スコット。彼らがもう本当に、素敵で素敵で。特にスコットの演じるモリアーティの狂気っぷりがすごい。観ていて背筋がぞくぞくするほどの演技です。

1シーズンたったの3話ですが、各話90分という満足の長さなので、一本一本に映画のような見ごたえがあります。今のところ出ているのはシーズン2までですが、来年シーズン3も放映されるとのこと。楽しみに待っています。





ネタバレ注意!!の追記
シーズン2の第3話まで観た上での感想です



ワトソンのブログ、シーズン2の最終話に合わせて更新されてるんですが、このシャーロックの死の埋め込みニュース動画が秀逸。BBCだからこそ可能なクオリティというか、本当にニュース見てるような気分になります。それだけに悲しくもなりますが…。そしてその一件前の記事の動画もまた寒気が…!モリアーティが怖すぎる。
ところで、モリアーティって本当に死んだんでしょうか。もちろん原作ではあれで死んでるんですが、残党はいますしね。まず、頭を撃っていてもシャーロックがその死を確認するシーンも無く、傷口も見えないので死んでいるかどうか定かではなく、そもそもあれが本物のモリアーティかどうかも微妙な気さえします。真実の中にひとつ嘘を混ぜると信じやすい、というあのプロットの通り、実は今まで見てきたモリアーティは役者が演じていたんじゃなかろうか、本当のモリアーティはどこかで高みの見物をしてるんじゃないか、とか…。そもそも「教授」だという設定がこれほど完全にスルーされてるのも不自然な気が。これは多分、シーズン3ではっきりするのでしょうね。
そして、高いところから落ちる=生存が定番のようになってしまった気もするシャーロック・ホームズ。彼はもちろん生きてる訳ですが、その種明かしがされるのもシーズン3。脚本家によると「シャーロックは3話で不自然な行動をとっている。それがカギだ」とのことなのですが、一体どこが不自然なのか。テクストメールではなく電話でジョンと連絡をとったのが普通ではない?色々気になりますが、もやもやしつつ来年まで待とうと思います。

2.1.12

金星特急5巻

届きました読みました!!

夏草…!!
おまけペーパーも素敵!

そんな調子で、雑誌連載時もばっちり感想垂れ流しているので単行本(特に書き下ろし)感想いきます。ネタばれますよ!


というわけで、あけましておめでとうございます。
今年もこんな感じでいきますが、よろしくお願い致します。





単行本としてまとめて読んでしみじみと感じたことですが、錆丸、かっこいいですねえ!
夏草やハサン(そして三月)という先生たちから出来得る限り学び、理解し、考え、勇気をふるって実践する。最高にかっこいい。連載時は砂鉄とユースタスの距離感だとかリオンの下衆っぷりにばかり気をとられていましたが、錆丸も本当に主人公らしく活躍していて素敵。

さて、書き下ろしの「チョコレートⅡ:夏草」の感想を。
夏草の過去、意外でした。私もてっきり「兵どもが~」の夏草、だとばかり思ってました。バベルの民だという点だけは予想が当たっていましたが。漢字の読み方は中国人商人から学んだ、とのことでしたが、だとしたらアルベルト殿下は彼に関して多少読み間違いをしていて、たまたま夏草が漢字を読めたので結果オーライ、ということになのですね。殿下(と錆丸)運がいいな…!
しかし、トナカイを放牧してる北極辺りの人、しかもロシア兵がいる辺り、というのはイヌイットの人たちのことでしょうか。 ←5/1すみませんいま読み返して馬鹿な発言に気付きました。イヌイット=カナダ・アラスカの人たちですよね、私は何を考えていたのか…日本人と他のアジア人混同するよりひどい間違いだ。当人方に申し訳ない!!あれですね、中国の北の方やシベリアに住んでる人たち、多分ツングース諸語を喋ってる人たちのことを言いたかったんだと思います。エヴェンキー語を喋る人たちはトナカイ放牧してなかったっけ、たしか…。それに、北極の方(漠然)には、確か東洋系の顔も西洋系の顔も混在していると聞いたことがあります。「ヤラ・イリィ」の意味も気になりますが、この地域、様々な言語が存在するので、スペリングが分からない以上調べるのはかなり難しいかと…(今度作者様にお聞きしてみようかしら)。思っていたより荒んだ過去と言えばいいのか、意外に愛された過去と言えばいいのか、今一つわかりません。鎖様との関係も思ったより深かったですね。心に澱を積もらせていくタイプが生き延びるには、浄化装置を見つけなければならない。心に傷を持つ人間は何かに耽溺する傾向がある、という錆丸の見たてに準ずれば、夏草の小説への入れ込みもこれに当たるのでしょうね。
そして、夏草の料理上手ってもしや、厨房潜りこみ経験&鎖様から学んだ技なのでしょうか。でも厨房イングランド軍、ということは鎖様から…?でも初仕事も社員食堂なので、調理の技術自体はそこで学んでそうですね。
砂鉄との関係も意外に深かったですね。19歳と14歳の出会いって、どうなんだろう。大学生と中学生相当ですよね。でも同じ戦場で出会って。名前も付けてもらって。砂鉄の「身近に料理の上手い奴がいた」っていうのは、彼のことですよね。あまり表面には出なくても、(割と甘い人間同士)仲はいいのでしょうか。
鎖様も、あんな過去があったとは。彼女が傭兵斡旋を始めたのも、草を食む仲間を得たいがためなのでしょうか。彼女の浄化装置、とは。鎖様はずっと謎の女性のままなのかと思っていましたが、彼女の過去を知ってますます好きな人物になりました。
夏草の過去を知った分、ますますユースタスとアルベルトの過去も気になってきます。ジャガイモを喰らう、のは例の人格者なアイルランド人乳母の影響でしょうか。そしてアルベルト殿下、初恋とかしてたんだ。でも他人に対してじゃなくて学問に、だったりするのかな。(今よりは格段に)純粋だったかもしれない殿下も見てみたいけれど、そのまま子どものときからすれてても素敵なような。でも、14歳と言えば殿下がハハリ博士に会った年ですよね。

そして、忘れてはいけないおまけペーパーの女装口座。ふんふん頷きながら聞いてるユースタスも可愛いし、何より錆丸美人!!化粧の仕方でも教えてください土下座。そして錆丸の指導を忠実に実践するユースタスが!あれは砂鉄じゃなくてもやられますね!で、傍らで冷静に値踏みしてる三月がとっても彼らしい。男でもいけるとか…笑。そして、女装指導の成果を欠片も見せない上から目線アルベルトに、完璧の三月、そして無茶ぶり駄目絶対の夏草さんと、各人物とりそろえたオチ。笑わせて頂きました。


あ、そういえば暁玲の金星を探す目的ですが、私は、ひっぱたいてやるというよりは劉強を元に戻して欲しいと懇願してみる方なんではないかと思います。まあ、外れるのが定石の私の推理ですが!

そろそろ風呂敷を畳み始めるころに差し掛かったらしい金星特急。終着点まで、わくわくしながら見守ったり語ったりしたいと思います。




追記:
ふと思いついてしまったのですが、金星、今まで分かった性格からして「金星の花婿募集」とか書かれたポスターを貼るような子に見えないとは思いませんか?だからといって不思議な力を持つ存在がもう一人いるような含みは一切ないとも感じるのですが。あと、ザメンホフが金星探してるのは、完了できてない言語大虐殺を完遂させたいのかな、とか。「世界語以外の言語などあってはいけない」というようなことを発言していたので。