7.9.09

母と子、母と母

 注:これは、獣の奏者シリーズをもとにしたwayaの勝手な考察であり、一個人の意見にすぎません。それでもよろしければ…

 ソヨンとエリン

 Ⅰ,Ⅱ巻だけでは分かりませんでしたが、全巻を合わせて見ると「母と子」の物語だなぁ、と思いました。
 どこかで読んだ感想で「ソヨンとエリンが同じように死ぬのがワンパターンだ」というような内容のものがありました。エリンとソヨンの死に方は、確かに同じような感じではあります。子どもが親を助けようとして来たところを逆に助ける、と。具体的に言えば、獣を操るところも同じです。
 思えばソヨンとエリンは死に方のみならず、その生涯もとても良く似ています。タブーとされていたことを破る、医術師(闘蛇・王獣)になる、(怪我しているところを助けた男が夫になっている(←これは蛇足でしょうか)。
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 こうして共通点だけを抜き出すと、ソヨンとエリンはとても似ているように見えます。けれど二人は、全然違う。もちろん二人は同一人物ではないので、細かい相違点は数え切れないほどです。が、大きな違いがいくつかあります。それは、決めつけられていること、特にいわゆる「掟」に対する反発の度合いと、秘することに対する反発の有無、だと思います。

 ソヨンは、霧の民の掟に完全に縛られている訳ではありませんでした。夫と結婚したことがその証拠です。また自ら「もう霧の民ではない」とも言っています。しかしそうは言ってもソヨンは子どものころから掟を教え込まれた女性です。だから、産卵期を迎えた闘蛇を救おうとはしなかったのだろうと思います。また物語後半で明らかにされることですが、「牙」たちが死んだ場合の通常の罰は、片腕を落とされること。それでもかなりの厳罰ですが、もしソヨンがこのことを知っていたのなら、片腕だけでもなんとか娘と暮らしていけるだろう、と考えたのかもしれません。
 エリンはそれとは対照的に、「掟」と定められていることに盲目に従うことに激しく反発していきます。なぜそのようなルールができたのか、なぜ従わねばならないのか、自分の頭で考え、体験したことをベースに自らの考えを構築していきます。これはおそらく、母ソヨンが霧の民の掟に縛られていたから死んだのだと考えていたことが理由の一つなのだと思います。

 また、ソヨンが秘密を守ることで大惨事が起きることを防ぐという考えであったのに対し、エリンは情報を公開することで防ごうとします。これは生き物の生を曲げてはならない、というエリンの独特の考え方とも共通しているように思えます。

 一番違うのが、その死の「目的」だと私は思います。もちろん、強制と自由意思との決定的な違いもあります。ここで言いたいのはそのことではなく、二人が死を選んだ最終的な動機についてです。ソヨンも、逃げようと思えば(結局助からなかったにしても)逃げられたでしょうから。
 ソヨンがあのまま逃げようともせずに死んだのは、「大罪」を犯したことの償いと、腹の刺し傷によって、その場を逃れたとしても死ぬだろうという予想のためであると思います。傷を負った女が娘とともに逃れてきたら、万が一助かったとしてもすぐに捕まってしまいそうですから、娘の未来を考えて行動した面も少なからずあったのだと私は考えています。ですが、娘を想っての選択であったにしても、操蛇の技を自分の死によって隠すという動機があったことも否めないでしょう。
 エリンも同じく、息子ジェシのために死んでいきます。息子の為に「まっさらな未来を」と。しかしその死は秘密を守るためのものではなく、逆に秘密であったことを暴かれたままにしておくため、それを後世に伝えていくためでした。

 自分のしたことに対する責任、という意味ではエリンもソヨンと同じ、だけれどその責任のあり方は天と地ほどにも違う。その違いが、私の心にとても響くのです。



 ここまで読んで下さった方がいらっしゃったら、お疲れ様でした、ありがとうございます!
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2 件のコメント:

きゃろる さんのコメント...

こんにちは、お邪魔いたします。
「獣の奏者」Ⅲ、Ⅳを読み終わりました。
・・・終わってしまいましたね。

実は読書中にこちらのレヴューを読んでしまって、後半はエリンの運命を知りながら、うるうるしてしまいました。

人間って、「〇〇してはいけない」と言われると逆にやってしまうものなんですね。

でも、その真摯な姿が今のジェシを支えていると思うとやはりこの物語は希望で終わっているのだと思います。

上橋さんの次作を期待しつつ。

WaYa さんのコメント...

 きゃろるさん、コメントありがとうございます^^ 

 『獣の奏者』が「終わって」しまったというきゃろるさんのコメントに、思わず頷いてしまいました。

 いつもの上橋先生の未来への想像を膨らませる結末とは違って、「エリンの話」はⅣ巻をもって終わり、ということがはっきりしていましたね。そしてそのエリンからジェシへと、物語が受け継がれていく様子も印象的でした。

 勝手な感想ばかり載せているブログですが、これからもよろしくお願いします^^