6.10.09

The Vast Spread of the Seas感想

 読了しました。「英訳」なので、考察ではなく純粋に感想を。…といいつつ、考察混じってます。しかも、いつもより根拠のない…。

 うん、面白い!
テンポも良く、文章の繋がりも良く、すらすら読めました。
 前までは蓬蘆宮(漢字合ってますかね…)=Brush-Jar Palaceなどの訳に戸惑っていましたが、もう慣れました。延王=Ever Kingにも、慣れました(笑。まあ、いつまでも滅びなさそうな感じがするので、ぴったりと言えばぴったりかもしれないな、と。

 今回のびっくり翻訳は梟王=Owl King。まあ、泰王=Peace Kingなどの例から考えると当たり前の展開ですが。一番「ん?」と思ったのがこれ。

 考えさせられたこと。
 なぜ、尚隆は「なおたか」から「しょうりゅう」に読みを変えたのか、なぜ、六太は読みを変えずにいるのか。
 尚隆は、自分は一度小松氏滅亡時に死んだ、とみなしているのかもしれないと思いました。自ら、「民を見捨てて逃げろというのか!」とまで言った彼だからこそ、「小松三郎尚隆」としての自分を葬り、「延王尚隆」となるべく渡ったのではないでしょうか。だから、陽子より堂々と「王」を名乗れるのかもしれません。
 対照的に六太は、読みも名前も変えません(例の「馬鹿」はありますが)。これは、六太が倭で暮らしていた頃の自分と決別しないためではないかと思います。倭での六太は、戦国時代に生まれ、戦火によって「殺された」子どもでした。だからこそ、それを忘れないため、一歩間違えば雁国も同じ轍を踏むであろうことを忘れないために、名前をそのままにしているのかもしれない。それに、六太には倭に兄弟がいましたから、その兄弟たちを忘れないために「六人目」であることを示す名前を使っているのかもしれません。

人物の口調について
 尚隆の台詞は、ほぼそのままでした。
 変わったのが、六太と「無謀」です。六太は、言っていることを大体意訳して、「13歳」らしさを出していました。「無謀」は、台詞自体が色々変えられていました。彼の非常に美しい皮肉や嫌味、小言の数々は、日本語特有のものばかりなので、それを大幅に英語バージョンに変えてありました。要するに、言葉そのものの直接の意味は全く違うけれど、言いたいことは同じ。訳した人すごいな、と心から思いました。

訳者について
 京極夏彦さんの作品の英訳も手掛けている方のようです。Alexander O. Smithさんと Elye J. Alexanderさんのお二人でした。京極夏彦さんの作品も、英語で読んでみたい…!

追記:
一つだけ、んー?とはっきりと首を傾げたかったところが。

尚隆が、小松氏が滅亡した後に「若、と呼ばれる度に、一緒に託されたものがある。一声ごとに託されて降り積もったもの」と言うところです。

英訳版では「託されたもの」がより具体的に、"Love"と訳されています。

私はどうしても、これには賛成できませんでした。だって、そのあと、尚隆自身が「連中の願いだ」って言ってるじゃないですか!!なんでキリスト教的に「愛」でかたづけちゃうんですか!?(キリスト教批判ではありません。ただ、この時代は日本の戦国時代だっていう話です)




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